スペシャルインタビュー企画の第1回。
デジタルマガジンVol.2(2007年12月1日発行)では紙面の都合上、どうしても掲載出来なかった未公開部分も一緒に御覧ください。
関西、西宮に拠点を置き活動するヨットレーシングチーム“スレッド”
その活動は多彩でクルーにはヨットレースに魅せられたアスリートが集う。
もっとも最近の戦歴のひとつにX-35ワンデザインレースの優勝がある。
そこで10月のX-35ワンデザインレースに臨む彼らの取り組みを訊き、トップセーラーのノウハウを学びたくインタビューを試みた。
まだ駆け出しの弊誌に、惜しげもなく、その情報を披露していただいたことに感謝したい。
------X-35ワンデザインレースでの初代チャンピオンおめでとうございます。
ありがとうございます。
------おそらくX-35のレースが関西ヨットクラブ主催のKYCウィークで開催されると決まって、準備にかかられたと思いますが、何時頃から、どのような計画をたてられたのでしょうか。
8月中旬まではFarr47で参戦したジャパンカップに照準を合わせていました。ジャパンカップ終了後にX-35の受け取りをして8月中にセットアップ及びテストセーリング、9月上旬にマストチューニング。9/23-24のKYC Week IRCレガッタをX-35ODレガッタのためのチューンアップレースと位置づけてここでクルーワークやボートスピードのチェックをし、10/7-8のKYC X-35ODレガッタに臨みました。
------セーリングでのトレーニングはどれぐらいされましたか?
スレッドチームはいつも同じメンバーでセーリングしていますので特別X-35ODのための練習はしませんでした。テストセーリングの時とKYC Week IRCレガッタの前に2日程他のX-35ODと走り合わせをしましたがKYC Week IRCレガッタが練習のようなものでしたから。
------その走り合わせで手ごたえは掴めましたか?やはり同型他艇とお互い隠し事せず、切磋琢磨していくことが、お互いのためになっていくことなのでしょうね。
この走り合わせでX-35ODの特徴がよくわかりました。自分達が良いであろうとイメージしている走らせ方が必ずしも良いとは限らなかったりするので。相手艇がいることによって走らせ方やトリムを変えていくことで試行錯誤しお互いが速くなっていけると思います。
------レースに臨まれるにあたり、すべて重要なことばかりでしょうが、優先順位はありましたか。
特別優先順位はつけていませんが全体的なスケジュール的をまず決めその流れの中で必要なことを行っていくようにしています。ポイントはなるべく妥協をしないようにですかね。
------この艇種で、マストチューニングに可能な範囲はどこですか?
マストのチューニングは使用しているセールメーカー(ノースセール)からチューニングガイドをもらい、まずは基本セッティングをそのガイドに合わせることから始めました。そこから自分達のフィーリングを付け足したりしました。でも基本的にはチューニングガイド通りにしています。
------その“自分達のフィーリング”が他艇との差として、レース後半の追い上げのつながったのではないでしょうか。それはやはり普段のトレーニングやミーティングで培われるものなのでしょうか?
まあ他のチームも多少はアレンジしていると思います。ちゃんとした理論を持って色々な艇種に乗ることによって様々なアイディアが出てくるのだと思います。そういう点では脇永さんのようにディンギーからACまで第一線でやってきた方のアイディアは素晴らしいと思います。
------前回アメリカズカップのクルーでもある脇永氏自ら、ボトムを磨いていらっしゃるのを見かけましたが、ボトムには例えればどれぐらい気を使われましたか?
ワンデザインレースですと他艇との違いを出せる部分が限られてきます。少なくともハードウエアで不利にならないように、またはこれでアドバンテージが得られれば御の字ですので船底磨きは徹底的に行いました。船底磨きに限らず準備と言った意味ではこれ以上できないと思えるほど準備には念を入れました。
------チームが準備の重要さを理解し、意思が統一されているからこそ、念を入れられる訳でしょうね。IMSレースに慣れたクルーの皆様だと存じますが、IMSレースとは違った問題はありませんでしたか?
やはりワンデザインレースですのでスタートで失敗すると苦しい展開になりました。IMSだと適当にばらけてフレッシュエアーをすぐにつかめるのですがワンデザインとなるとそうもいきませんので。
それとワンデザインレースはフィニッシュした順番で順位がつくのでわかりやすくて良いのとすぐそばに相手艇が帆走っているので燃えますよね。絶対に前の艇を抜いてやろうとか。
------まさにワンデザインレースの魅力そのものという感じですね。かなり厳しいレースだったとお見受けします。今回のレース展開は乗り手にとって、如何でしたか?
実はもっとスピードアドバンテージがあってフリートの前に出て楽な展開になるのではないかと期待していたのですが、やはりワンデザインレースそれほど甘くありませんでした。
残念なことに2日間とも風が安定しなかったのですが、KYCのレースコミッティーの粘りのお陰で何とか4レースできました。もっと風のある中でのレースもしてみたかったところです。
------その甘くないワンデザインレースでは、レース中の艇上はどのようなムードでしたか?いつもと変りはなかったですか?
スレッドチームの大半のクルーはFarr40ODレースの経験があるのでワンデザインレースでの集中の仕方を心得ているので特にいつもと変わりはありませんでした。良い時も悪い時も平常心がスレッドチームの心得です。
------なるほど燃える気持と、平常心でレース臨まれているということですね。やはりそういったところが、勝因と言えるかもしれませんね。平常心はそれを裏付ける自信が必要となりますよね。
やはりチームでのトレーニングとチューニングを含めた準備、段取りが大切なのでしょうね?
それと同じメンバーで長い期間チームを組んでレースに出場していくことは非常に有利になると思います。チーム内で色々な役割分担が決まっていますのでコミュニケーションも円滑に行えます。
------チームには社会人クルーの皆さんでも支えられていると思いますが、その皆さんの取り組みはどのようなものでしたか?
船底磨きにも積極的に参加してくれたし、ウエブサイトから色々な情報を取ってくれたりと自分達のできる範囲で時間を使ってくれました。
------クラブレースを楽しむ皆様にも共通する、レースを臨むにあたって、この部分は外せないというチュックリストはありますか?
なるべくいつも一緒に乗っている固定したクルーがみんなで準備をしていくことがいいのではないでしょうか。
------社会人が楽しむスポーツとして、練習時間が限られてしまいます。クラブレースを楽しむ人たちが、もっと練習時間を増やすに何か妙案はありませんか?
基本的にはレースが一番の練習になると思います。練習の時とレース時ではプレッシャーが違いますし大小かかわらずレース中のトラブルにいかに対応するかが重要だと思うからです。
------準備、練習、ミーティングで意思統一を図りながら、やはりレース優先でクルーのスキルアップを図っていくということにですね。今回のレースに限らず、ご自身の経験でチームがうまくまとまったエピソードや極意などがあれば、お聞かせください。
チームがまとまるきっかけとなるのは何かのミスが起きたときなのではないでしょうか。しかも大きな。そういうトラブルに全員で対処していく時にチームがひとつにまとまっていくような経験が多々あります。そういう歴史がチームを強くしていくのだと思います。具体的には自分のミスばかりなのでここでは遠慮させてください。
------なるほど。クラブレースを楽しむ人たちは、クルーや同好の士が集まらないことが多いのですが、何か妙案はございませんか
まずはセーリングを楽しんでもらいたいですね。レースで勝つテクニックではなく風で帆走する楽しさや気持ちよさを伝えられれば人も集まってくるのでは!?
------つまり、今セーリングに魅力を感じている人々が、その素晴らしさを自分の感じるままに伝えること、そこから始まるものがあるということでしょうか。弊誌もそんなセーラーの皆様の一助になれば、非常に嬉しく思います。有難うございました。
どういたしまして。
レーシングシーンのトップを走るセーラーの一人でもあり、名だたるセーラーと親交のある本田氏の言葉は、その経歴と経験に裏付けされた確信を含んでいた。そこには妥協を許さず、やるべきことはきちんとやってこそ、勝ちがあることを示唆していた。そして何よりも、セーリングの楽しさをよく知るセーラーのひとりで、多くの人にこの楽しさを味わって欲しいと願っているに違いない。